「傾聴が上手くなりたい。この望みの裏には『もっと信頼されたい』という思いが隠れているようです。もう少し深く考えてみたいです」というセッションでした。

 「信頼されるために傾聴する」というのは、信頼されていないと感じているのか? 信頼されて頼られたいのか? どちらのこともありそうです。クライアントさんは、「信頼されて頼られたい。よかったありがとうと言われたい」という気持ちのようです。しかしそれは、どことなく不自然な感じがするので、「人の役に立ちたい」という気持ちになるには、どう視点を変えればいいのか? 見えていないようでした。

MP900439037「感謝されたい」
「人の役に立ちたい」
たしかに、ニュアンスが違います。

 「感謝されたい」という気持ちがあると、傾聴をするとき、どんな風になってしまうのでしょうか?

 私はコーチになって3年目くらいまで、「成果を出してもらいたい」という気持ちが強く、私も「人の役に立ちたい」という気持ちも持ちながらも違和感がありました。メンターには、「その考えを持っていたら、堀口さんの依存者が増えて、これ以上ビジネスは広がらないでしょう」と、はっきりと言われたのです。でも、私もどう視点を変えればいいのか? 全くよくわからずにいました。


 「感謝されたい」も「成果を出してもらいたい」も、「してもらいたい」というところは同じです。そんな私でしたが、「成果を出してもらいたい」と思いすぎなくなったきっかけがありました。
 私が「してもらいたい」から「人の役に立ちたい」へパラダイムシフトした話をクライアントさんにシェアしました。

 あるとき精神科医の名越先生が出ていらしたトークショーへ行ったときのこと。名超先生がご自身の仕事について「僕の仕事は『ありがとう』と言われてはいけない仕事なんです」とおっしゃいました。私も人の相談にのる仕事として、とても興味深いと思いながら聞いていました。

 以前は、「感謝されたい」と思っていたそうです。そのために、「いつでも相談していいよ」と携帯の電話番号も教えたら、夜中にもクライアントさんから電話はかかってくるわ、彼氏ができましたけど、結婚してもいいでしょうか? とか、なんでもかんでも相談されて、寝る時間も落ち着かない日々となり、とにかく大変なことになったそうです。そういう状況になってみて始めて「クライアントに、自分でなおったと思ってもらうことが僕の仕事。ありがとうと言われてはいけないんだ」と先生は気付いたそうです。

 この話は、私の中にもストンと響きました。私も「クライアントさんに依存されないように」と「結果を導いてあげなくては」の境目にいて、クライアントさんとの距離感に大変悩んでいた時期だったので、急に視界が開けたのです。「ああ、私が目指すところもそこだ!」と。

 それから、依存されすぎないように…との考えが強くなりすぎて、質問をあまりしなくなってしまったり、冷たくメールを返してしまったり、バランスを取るのに試行錯誤しましたが、目指す境地である「人の役に立ちたい」というニュートラルなところへ行くには、両方とも経験する必要が私もあったのだと思います。

 クライアントさんにその話をシェアすると、クライアントさんは、こっそりと何か働きかけて、相手が喜んでくれることに喜びを感じる方のようで、「気づいてないぞ! やった!となりそうです!」と喜んでおっしゃっていました。

 「自分で変化、成長したと思ってもらうこと」。
 コーチングの距離感というのは、まさにそういうことが可能です。私は「じゃあ、あなたの店舗へ行って、私も参加しましょうか?」ということなしで、クライアントさんは変化されていくからです。コーチになりたてのころは、対話だけで人が変化していくというのは、無理だろうなと少し思っていましたが、(笑)今では「対話で人が変わっていく」ことに確信を持てているのです。

 傾聴は、自分の自我を消さなくてはならない仕事です。


今日はこちらの質問はいかがでしょうか?

相手にどのように働き掛けていますか?