先日、12年くらい使っていた携帯電話の解約へ行きました。2台持っており、一つは全く電源も入れなくなったためです。また、もし、どうしてもそこに入っている連絡帳の人に連絡を取りたくなった場合でも、検索すれば探せる世の中になったから、音信不通になる心配がないなと思えたので。

 解約手続きは、携帯電話に入っている、個人情報が詰まったカードを抜いて、それを持っていくだけということで、携帯ショップへ行きました。

「ご解約のお手続きですね」
「はい」
「こちらのカードにはさみを入れていいですか?」
「んー。(あ、そうか今までの人たちの情報をカットか・・)はい、大丈夫です」
「解約金が9700円発生しますので、翌月の口座振替で最後のご請求となります」
「(え? 解約金が要るのか。知らなかったなぁ、でも仕方ないな)はい」

 ジョキッ

――ハサミを入れる音―――

「では、こちらがご案内となりますので」
「はい(随分事務的だな)」
「ありがとうございました」

 と言われて、席を立ったら、そこのフロアーの手が空いている人たちがほとんど私に向かって「ありがとうございました」と言ってきたので、10人くらい声が聞こえてきました。

「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」

(解約に来たのに・・・)


 解約は、スムーズでしたし、手順に関してなにも困ったことはありませんでした。しかし、たった3分くらいの出来事でしたが、私の中では、感情が動いていました。

 カードにハサミを入れる場面は、決意の時におきる様々な感情が湧きました。
12年間の人たちの連絡先が入っているのです。その中では、悲しい別れがあったり、喧嘩別れがあったり、あるときよき仲間だった人たちとか・・・・。そんな携帯電話を解約するのは、私の勝手ではありますが、目の前でジョキっとはさみが入るときの言葉がけは、もう少し温かい感じで言うとしたら何だろうと考えました。

「個人情報保護法の関係で、お客様の前でハサミを入れることになっております。失礼いたします」とか。

 事務的にこなせるのならば、解約のための自動販売機でもよいのかもしれません。しかし、人が絡んでくると、相手の言動によって、感情がとても動きます。

 最後にほぼ全員が「ありがとうございました」と解約の私に言ってきたのも、マニュアル的には、“正しい”のでしょうが、私にとっては、少々気まずいという感情も湧きました。「解除のお客様はそっと見守る」なんて、マニュアルに書いてなさそうですが…。

 私も、ただ、やるべきことはやっておけばいいのではないかと思っていたこともあります。
 しかし、その調子で物事を進めていると、ときには、もっと気持ちを聴いてほしいとか、承認して欲しいなど、相手が私に言ってくることがありました。

 言われたら、自分が成長するためのメッセージだと受け入れて、そのことについて、じっくり考えながら、自分が相手の気持ちを察する心を持てるように心の目を開いていきました。

 「相手のことは、変えられないから」と思って、自分が我慢をして、相手に言わないことを貫く方も多そうですが、私がそうであるように、変わろうと思う人間もきっといると思います。自分が我慢するのと、相手が変わるかどうかは、別です。
 もし、感じたことがあったら、自分が我慢するのではなくて、ただ、自分の気持ちを言ってみたらいいのだと思います。相手にとっては、成長の機会になるのですから。

 ある時、私も親に「アドバイスはありがたいけれど、気持ちを聴かれないことがある」とメールをしたことがありました。きっと、子供のころから、気持ちを聴かれないで、一方的にアドバイスをされたことに、腹を立てていたのでしょう。相談事は、いつも親以外にするところがありましたので。

 結局は、アドバイスをされたとしても、自分で考えて決断し、決断した後は、親は見守るしかないようで、ここまで進んできました。しかし、「聴かれていない気がする」と親に告げたのは初めてのことでした。

 一方的に相手から言われている気がすると、「この人は聴いてくれない」と相手は思い、ますます本当のことを言いにくくなり、相談せずに事後報告とか、避けるようにしていくでしょう。

 でも、相手のことを思っているからこそ、どうしても伝えたいこともあると思います。そんなときは、相手の気持ちを傾聴したあとで、こちらが思うことがあったら、意見として伝えればいいのです。どう決めるかどうかは、相手次第という気持ちで。すると、上から目線にならず、その考え方も選択肢に入れてみようと、相手は思うのです。

 忙しい世の中ですが、対話のときは、ゆっくりと時間をかけて、「感じてみる間」を持つことを心がけるだけで、聴き方に変化を感じると思います。そして、本当に心からの思いを自分自身が感じ取れるようになるでしょう。


 今日はこちらの質問はいかがでしょうか?

アドバイスだけに一生懸命になっていて、
相手の気持ちをおざなりにしていませんか?